2020年民法改正 意思表示に関して
◎意思表示とは
意思表示とは、一定の契約等の法律効果の発生を欲する旨の意思表明のことを言います。
例えば、土地の売買の場合、買主さんが土地を「買います」と言えば、それは契約等の法律効果の発生を求めていることになります。
そのため、「買います」という言葉が「意思表示」となります。
また、契約には「諾成契約」という面があり、売買等の当事者双方の意思表示の合致によって契約は成立するものとされています。
つまり、Aさん所有の土地をBさんに売却する場合、Aさんが「売ります」という意思表示をして、Bさんが「買います」という意思表示を行えば、契約は成立するということです。
そして、意思表示に問題があるケースとして民法では以下の5つのケースが規定されています。
〇心裡留保
わざと、真意と異なる意思を表明した場合
〇通謀虚偽表示
相手方と示し合わせて真意と異なる意思を表明した場合
〇錯誤
- 間違って真意と異なる意思を表明した場合
- 真意どおりに意思を表明しているが、その真意が何らかの誤解に基づいていた場合
(動機の錯誤)
〇詐欺
騙されて、意思を表明した場合
〇脅迫
脅迫されて、意思を表明した場合
以上のようなケースが規定されている民法ですが、民法改正によって従来の民法と変わった点があります。
今回はこのような意思表示の民法改正で一番大きく変わった「錯誤」についてみていこうと思います。
◎錯誤
錯誤とは前述した通り、「間違って真意と異なる意思を表明した場合」と「真意どおりに意思を表明しているが、その真意が何らかの誤解に基づいていた場合(動機の錯誤)」があります。
例を出すと、
〇「間違って真意と異なる意思を表明した場合」
売買代金として1000万円と記載すべきところに100万円と記載した契約書を作成してしまった。
〇「真意どおりに意思を表明しているが、その真意が何らかの誤解に基づいていた場合」
土地の譲渡に伴って自らが納税義務を負うのに、相手方が納税義務を負うと誤解し、土地を譲渡した
以上のような場合が錯誤にあたります。
◎民法改正
前記した錯誤の民法改正による変更点は大きく分けて以下の2点です。
- 要件の明確化
- 効果の変更
一つずつ見ていこうと思います。
〇要件の明確化
民法改正前の錯誤に関しては、民法第95条にて、『意思表示は、法律行為の要素に錯誤があっ たときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失が あったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。』と規定されていました。
民法改正後は『意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくも のであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上 の社会通念に照らして重要なものであるときは、取 り消すことができる。 一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤 二 表意者が法律行為の基礎とした事情について のその認識が真実に反する錯誤 2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、 その事情が法律行為の基礎とされていることが表示 されていたときに限り、することができる。』と規定されることとなりました。
大きく変わった点は、
- 意思表示が錯誤に基づくものであること
- 錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること
- 同期の錯誤については、動機である事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていること
以上の3点が民法改正前から明確に明記された内容です。
〇効果の変更
効果に関しては、民法改正前は錯誤の意思表示は「無効」とされていましたが、民法改正後は「取消し」となりました。
民法の一般理解では、無効に関して、
- 誰でも主張できる
- 無効を主張することができる期間に期限はない
とされています。
対して、取消しは
- 誤解した者のみが取消しを主張できる(相手方は不可)
- 取消しを主張することができる期間は追認することができる時から5年、行為の時から20年を経過した時に時効によって消滅する
と規定されています。
では、なぜ無効が取消しに変更になったのでしょう?
それは、民法改正前の錯誤に関する意思表示の判例が関係してきます。
民法改正前の判例として、「無効を誤解していた表意者のみが主張でき、相手方は主張できない」というものがありました。
また、詐欺の場合民法改正前から取消しを効果としており、詐欺と錯誤で期間制限に差が出るのはバランスを欠くという意見もあり、この2点の問題から民法改正において錯誤の効果を取消しに改められました。