2020年民法改正 保証人の保護に関する改正

不動産の賃貸・売買にかかわらず、「保証契約」という言葉を聞いたことがあるかと思います。

しかし、この保証契約は不動産だけでなく、継続的な物品の売買や金融機関の融資など様々な場所で使われています。

この保証人制度も、2020年4月の民法改正で大きく変化しました。

今回は、前回お話コラムとしてまとめた「契約不適合責任」に引き続き、保証人の保護に関する民法改正についてみていこうと思います。

◎保証契約とは

保証契約とは、借金の返済や代金の支払などの債務を負う「主債務者」がその債務の支払をしない場合に、主債務者に代わって支払をする義務を負うことを約束する契約を言います。

 

保証契約には「保証人」と「連帯保証人」を含んでいます。

この二つの違いは保証責任の範囲が大きく違い、保証人の場合は「催告の抗弁権」「検索の抗弁権」「分別の利益」を行使することができますが、連帯保証人の場合は行使することができません。

 

  • 催告の抗弁権とは

債権者が保証人に対していきなり債務の履行を請求してきた際に『まずは主債務者に請求してくれ』と主張できる権利です。

  • 検索の抗弁権とは

例えば、主債務者に返済資力があるにもかかわらず、主債務者が債務の履行を拒んだことにより保証人に請求が来た場合は、『主債務者に資力があるのだから、主債務者に返済してもらうか、主債務者の財産を差し押さえてくれ』と主張できる権利です。

  • 分別の利益とは

保証人が複数いた場合に債務額を保証人の人数で按分した金額だけを負担することです。

 

以上の3点に関して、連帯保証人はその権利を行使することができません。

しかし、今回の民法改正では保証人と連帯保証人の違いに影響はなく、連帯保証人を含むすべての保証人に関係する変更点となっています。

 

◎極度額について

保証人の保護に関する民法改正に関してまず保証人の「極度額」についてみていこうと思います。

極度額とは、根保証人が支払の責任を負う金額の上限となります。

そして、民法改正後からはこの極度額を設定しなければ、根保証契約は無効となります。

この極度額は、書面等により当事者間の合意によって定める必要があり、「○○円」等と明瞭に定めなければいけません。

つまり、この極度額を定めない限り根保証契約を行うことはできないということです。極度額を定めずに根保証契約を行うとその根保証契約自体が無効となる為、根保証人への債務の回収が出来なくなります。

ちなみにこの極度額を伴う保証契約は2020年4月1日以降に行われた契約が対象になり、これ以前の契約では、極度額がない場合でも保証契約は有効となります。

〇根保証契約とは

極度額の説明の際に出てきた「根保証契約」とは継続的な取引から将来発生する不特定の債務をまとめて保証する契約のことを言います。

例えば、賃貸物件を賃貸する際に、借主(主債務者)が数か月家賃の滞納をした場合等、現実にどれだけの債務が発生するのかはっきりしないような保証契約を根保証契約と言います。

 

◎特別の事情による保証の終了

個人が保証人になる根保証人契約については、保証人が破産したときや、主債務者又は保証人が亡くなった時などは、その後に発生する主債務は保証の対象外となります。

 

◎公証人による保証意思確認手続の新設について

保証人を設定する際に、その保証人になる対象の人に関しても制限が設けられました。

法人や個人事業主が事業用の融資を受ける場合に、その事業に関与していない第三者が保証人となる為には、公証人による保証意思の確認を経なければならなくなりました。

この公証人による保証意思の確認は以下の場合は不要とされています。

 

〇主債務者が法人である場合、その法人の理事、取締役、執行役や議決権の過半数を有する株主等

〇主債務者が個人である場合、主債務者と共同して事業を行っている共同事業者や主債務者の事業に現に従事している主債務者の配偶者

 

  • 公証人とは

公証人とは公証人法の規定により、裁判官、検事、法律事務管などを長く務めた法律実務の経験豊富な者の中から法務大臣が任命した者のことを言います。

◎情報提供義務

今回の民法改正で新設された保証契約に関する規定の中で、保証人への情報提供が義務化されました。

主に3つの保証人への情報提供義務が新設されました。

 

〇保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務

事業の為に負担する債務について、保証人になることを他人に依頼する場合には、

  • 主債務者の財産や収支の状況
  • 主債務者以外の債務の金額や履行状況等に関する情報

以上の2点を保証人になることを依頼しようとしている者へ提供しなければいけません。

このルールは売買代金やテナント料など、融資以外の債務を保証する場合にも適用されます。

 

〇主債務の履行状況に関する情報提供

保証人となった場合は、その保証人は債権者に対して、主債務について支払状況に関する情報提供を求めることができます。

 

〇主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務

債務者が分割金の支払を遅滞するなどしたときに一括払いの義務を負うことを「期限の利益の喪失」といいます。

主債務者が期限の利益を喪失すると、遅延損害金の額が大きくふくらみ、早期にその支払をしておかないと、保証人としても多額の支払を求められることになりかねません。

そのため、保証人が個人である場合には、債権者は、主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知った時から2か月以内にその旨を保証人に通知しなければならないとされています。

 

以上のような改正民法が2020年4月から適用されています。

契約書の作成や保証意思確認など様々な専門的な知識が問われます。

しっかり知識を付けることで、後のトラブル抑止につながる為、改正民法のことをよく理解しておくと良いでしょう。